やさしいお茶のお話し 茶・楽・茶・話<5>
未来のお茶の最後のお茶
一月の異名には初春月や早緑月など春を想いおこす名前があげられますが、冴え返るのも今時分のこと。この時季のいまにも時雨れそうな空の下、静けさの中で川のほとりに白鷺の群れがたたずんでいる様子を見かけますと日常の風景が一変し、忽然と白と墨の色からなる墨絵の世界が開かれる思いがいたします。
墨の濃淡の世界は吸い込まれそうな清明な白さを引き立たせ、白という色に草木が萌えいづるあたたかな未来、春を希求するこころを託していることに気付かされます。
本当ならあるはずの色がないからこそ、春の不在を感じ夢幻の世界に遊ぶのかもしれません。
静岡県に「水見色(みずみいろ)」という不思議に美しい名前の土地があり、静岡市街地より十数キロ離れた安倍川の支流の藁科(わらしな)川水流の、夏には蛍の舞う清流「水見色川」や多くの茶畑に囲まれた山里がございます。
その地で、今は亡き匠が「半歩進んだお茶」作りに取り組まれておりました。
山桜に包まれた南向きの急斜面の茶園で、日本茶を代表する「やぶきた」という品種から離れ「香りに特徴のある製品作り」に挑戦されていました。
今月よりGINZA茶楽ではヴィンテージの「半歩進んだお茶」を現定数ではございますが『水晶幻想』という名前でご紹介しております。
こちらのお茶は、「自然仕立て」という日本茶の中で高級茶の代名詞でもあります玉露や抹茶の原料の碾茶などの茶園で行われます、ひとの手で柔らかい若芽だけを摘むことで古い葉や茎が混ざらず品質の良いお茶をつくる方法で大変な労力のかかるお茶の仕立て方になります。一芯二葉という、一個の芯芽に二枚の新芽だけを摘む贅沢な摘み方をされております。
一年という時間はその唯一度のお茶の葉を摘むために費やされ、その当時の年間生産量は
わずか、20キロとのこと。
化学肥料や合成農薬に頼らず安全性にもこだわられ、また、摘み取ったお茶の葉をあえて萎おらせることで「花香」が発揚する品種の特性を最大にいかそうと台湾製の鉄釜で炒って作られていました。
一般に釜で炒られたお茶は香り高く、味わいは淡白ですが押しがあり、さっぱりとした中にくどさがないといわれております。
優れた特徴に加えて、作られてから六年の歳月が流れ、碧の宝石と讃えられるマスカットのような優美で官能的な香りに気高さと力強い旨みは淡麗そのもの。
うつわの中でお茶の葉が水晶のような煌めきをまといながら幻想の世界に誘われるかのようです。
念ずれば花開く
こちらはその匠が好きな言葉に選ばれたものでございます。亡くなられた匠のお茶に懸けた想いは、飲まれる方のこころのなかにいつまでも花開くのではないでしょうか。
奇跡を身近にお感じ下さいませ。
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